問いを差し出す姿勢
「対話」と比べて、「おしゃべり」や「意見交換」は軽んじられがちです。でも、その中にも、人と人が偶然に出会ったり、異なる語りに触れたり、自分の当たり前が揺らぐような瞬間があると思うのです。ただし、流れにまかせた会話の中では、せっかく生まれかけた問いや、感じかけたズレや違和感も、気づかれないまま通り過ぎてしまうのではないでしょうか。だからこそ進行役には、その流れに「ちょっと待って」と立ち止まり、「今、何が起きている?」と問いを差し出す姿勢が求められるのだと思います。
実は、ここ数年で私自身の考えも大きく変わりました。「おしゃべり」や「雑談」「意見交換」は、決して侮れない。以前は、人と議論を明確に分け、論理性を重視していたのですが、今はむしろ、おしゃべりの中に含まれる感情やままならなさが、思考の深まりへの入り口になるのではないかと痛切に感じているところです。
安本 志帆(正会員)
「考え+理由」をセットに
まず、テーマや問いを最初に明確に示しておく必要があるでしょう。話が逸れて(あるいは逸れそうになって)おしゃべりのようになったとき、テーマや問いに返るよう参加者を促すことができるからです。また、参加者が何か考え(意見)を述べたとき、なぜそう考えたのか・考えるようになったのかの理由も聞き、「考え+理由」をセットにして板書するよう心がけます。他の参加者にも、それを促すようにします。そうすることで、単なる意見交換から、様々な「考えの理由に関する考え」の発言というかたちで、対話に深まりが出てくることになります。
ただし、あまり頻繁にテーマ・問いに立ち返るよう促したり、考えに必ず理由を付け足すよう義務づけたりすることは禁物だと思っています。それは、対話を堅苦しいものにしてしまうからです。
堀江剛(正会員)
テーマとの関連を意識
私が一番重要だと思うのは、対話の中で出た一つ一つの発言が、テーマとどのように関連しているかを丁寧に聞き取ることです。私自身まだまだ進行役の経験は少ないですが、少なくともそうしている限りでは、あらゆる発言がテーマに関連して活きているように感じられます。(参加者の方に聞いたわけではないので、私が勝手にそう思っているだけかもしれませんが。)
もちろん、ただのおしゃべりのように思える瞬間もたくさんあります。そうした場合でも、参加者の方がふと関連性を拾ってくれることもありますし、私が思い切って、「テーマとの関連は、こんな感じですか?」と投げかけてみると(私の投げかけは的を外しながらも)、新しい視点に繋がって対話が広がることもありました。
場を統制してひとまとまりの答えを作るのではなく、テーマを意識しながら丁寧に話を聞き取ること、これが進行役の役目なのではないかと思っています。
多鹿雅人(正会員)
「聴く」ということを体現
毎月、東京の浅草橋にあるカフェで哲学カフェをしています。初めて参加される方が多いので、ともすると単なるおしゃべりや意見交換になりがちです。そうなってしまう一つの理由は、「話を聞いていて思いついたことを、気軽に言いたい」という衝動に突き動かされるからではないでしょうか。
そこでいつも冒頭に、「発言する人が何をいおうとしているのかしっかり受け取ろうと意識して聴きましょう」と丁寧にお伝えしています。答えのわからない問いにみんなで一緒に向き合っていくためには、「途中で遮られず、最後まで聴いてもらえている」「自分の発言がこの場で受け止められた」という確かな安心感がかかせません。だからこそ進行役はその場でもっとも「聴く」ということを体現する必要があると思っています。
参加者一人ひとりの「聴いてもらえているという安心感」は、「他者の意見をしっかり聴こう」「単なる思いつきを話すのではなく、問いについて真剣に考えて意見を言おう」という姿勢につながり、対話の土台を形作っていくのではないかと考えます。
大前みどり(パートナー会員/ダイナミクス・オブ・ダイアログ)