流れに乗らず、切り替える
哲学カフェでは、一人ひとりが、ご自身の考えをご自身の言葉で語ることを大切にしています。親子で参加されていたり、ご夫婦や仲間同士で参加される場合でも、進行に支障がなければ問題ありません。しかし、介入が必要になるケースもあります。
親子や夫婦の間で、いつもの関係性が垣間見えるような茶々を入れる発言、時には先の発言を遮るように「そらちゃうで!」とか「ちゃうやんか!」と即断するようなやり取りが起きることがあります。このような時、他の参加者からどう見られているかと、個別の人間関係が表に出ることを負担に感じている方もいるかもしれません。
また、仲間同士で参加している場合、自分たちの意見が正しいと主張するような圧力を感じさせる発言が見られることもあります。ご自身の考えを自由に話すことが難しくなるような状況では、進行役として介入が適切になる場合があります。
セッション中に、参加者間で発生する関係性(例えば、過度な合いの手、大げさなジェスチャー、拍手など)があります。進行役は流れには乗らず、セッションの早い段階であれば、話題を切り替えることで流れを変えたり、セッション終盤であれば、こちらからあえて異なる意見や感想を求めることで、バランスを取るように努めます。
哲学カフェの冒頭で必ずルールをご説明します。「自分の考えをご自身の言葉で話していただくこと」そして、「同意する人がいることは良いが、同意を求める必要はない」という点も明確にお伝えします。
進行役としては、大きな声や強い流れによって、小さな声やささやかな気づきが埋もれてしまわないよう、常に注意を払っています。参加者全員が安心して、それぞれの思索を深められる場を提供するために。
赤井郁夫(正会員)
繊細なバランスを意識する
哲学カフェにおいて、参加者同士に既存の人間関係がある場合には、対話の質を保つためにいくつかの配慮が必要です。特に、立場の違いや力関係が存在する場合、参加者が本音を語ることが難しくなることがあります。私がこれまで実践してきた中でも、障害のあるお子さまを育てているお母さま方を対象にした哲学カフェでは、こうした関係性の影響を強く感じる場面がありました。
たとえば、医療機関や特別支援学校での開催では、保護者だけでなく、担当の医師や教員も参加することがあります。そうした場面では、医療者や教員が職業的な立場で発言してしまうと、他の参加者が「空気を読む」ようになり、本来自由で対等なはずの対話の場が萎縮してしまうことがあります。これでは、哲学カフェの目指す「自由に問い、考える場」が成立しにくくなります。
そのため、まず大切なのは「対等性の確保」です。参加者が職業的な役割や肩書を一時的に横に置き、一人の「問いを持つ人」として参加することが求められます。進行役としても、発言のスタイルやタイミングに注意し、特定の立場の意見が無意識に重くならないよう配慮します。
また「安心感の醸成」も重要です。信頼関係があるがゆえに言いづらいこともある一方で、日常では語れない悩みや違和感を共有できる貴重な機会にもなり得ます。そのためには、話したくないことは話さなくてよいというルールを明示し、誰の意見も否定されないという場づくりが大切です。
人間関係があるからこそ話せることもあれば、逆に話しにくくなることもあります。その繊細なバランスを意識しながら、誰もが自分の問いに向き合えるような、安全で対等な空間を目指すことが、哲学カフェを成功させる鍵となります。
稲原美苗(正会員)
問いに注意
哲学カフェではなく、こどもの哲学(p4c)の実践になりますが、参加者同士に人間関係がある場合は「どんな問いを立てるか」に特に気をつけています。
学校実践の場合、教室などでは、こども達のあいだに日常的な関係や力の差があるため、問いによっては特定の子を思い浮かべて発言してしまうようなことがあります。
たとえば「やさしい人ってどんな人?」のような問いは、普段の出来事を思い出しやすく、「昨日〇〇さんが〜してくれた」と具体的な名前が出てしまうこともあります。そうなると、「自分はしてもらえなかった」など、人間関係に余計な波風を立たせてしまうようなことが起こってしまったりもします。
そこで、問いの抽象度を少し上げてみたり、「もし動物の世界だったら?」など、話されるエピソードから少し距離をおいた問いかけをしてみたりしています。
一方、あえてクラスの人間関係などに課題が見えている時には、今の関係性にしっかりと向き合える問いを選ぶこともあります。そういう時は、名前を伏せてじっくりと考えられるサイレントダイアローグを採用しています。
同じメンバーで長く続けている学校外の場では、関係の積み重ねの中で「前とはちょっと違う考え方ができるようになった」と互いに気づくことがあり、それが哲学の深まりにもつながります。そのため2年に1度くらい、あえて同じ問いで考える時間を作っています。同じ問いを同じメンバーで6年のうちに3回やると、みんな過去の発言を覚えているので、過去の自分も対話に参加しているような感じがします。
親子や兄弟で参加する場合は、家庭での会話が再現されることも多く、親の反応を意識して子どもが発言を控えることもあります。たとえば「いい親ってどんな親?」のような問いは関係そのものに踏み込みすぎるため避け、「怒られたとき、どう感じる?」や「約束ってどうしてするんだろう?」など、それぞれの感じ方や考え方を比べられる方向にしています。ときには「おとな」と「こども」を分けて、同じ問いで話すこともあります。
安本志帆(正会員)