安心してのぞめる環境を整える
進行役は、まずは参加者の前提を整える役割をする人だと考えます。
発言の際の心構え(ルール)はどんなものか(手を挙げる、人の話は最後まで聞く、沈黙があっても焦らないなど)、どういう形で対話が進むのか(スケジュールもあわせ)といった対話に関することの他にも、お手洗いはどこにあるのか、途中で退席したい場合は声がけした方がいいのかとか、安心して対話にのぞめる環境を整える人です。
また、会がはじまる前から、会場のセッティングの仕方や、何人募集をするかなど、その役割はスタートしています。そうした上で、当日の時間になったら対話のスタートを切る。そのあとは、参加者の対話に委ねたり、整理したいときは整理したり、最初の心構えからの逸脱があれば修正したり、安心が保たれるよう注意しながら、最後に「終わり」を宣言する人かなと思います。
楠本亜紀(正会員/Landschaft)
「役」だからこそ区切りをつける
そうですね、私の場合は何をしてるでしょう?
まずは場についての説明ですかね。でも、主催者が別にいて説明してくれる場合は、強調すべきことを補足するくらいかも。対話の「始まり」の宣言はします。始まってから来た人を対話の中に誘導すること、このときの改めての説明は進行役の役目かな。あと、始まってからも、ちょくちょくリマインドをしてるかも(ここがどんな場か、問いはなんだったか)——忘れることもよくあるので。誰かの発言を聞く姿は率先して見せたいが、評価は避けたい——対話の流れを「手放す」構えを見せる——でも質問でスローダウンさせたりはする——そういう意味では、進行「遅らせ」役もする。中断すべきときは中断する、という覚悟。そして最後に、時間になれば終わりの宣言——これはとくに参加者とは違う役割か。その宣言によって、時間だけを理由に——あくまで形式的に——区切りをつけることができるのは、一般の参加者とは別の「役」だからこそかもしれません。
鈴木径一郎(正会員/大阪大学社会技術共創研究センター)
暗い洞窟で地図作成
真っ暗闇の洞窟に入ったことはありますか?
ありませんよね。私だってありません。しかし良い機会なので、皆で入ってみましょう。まずは何をしますか? やはりライトを照らして辺りの様子を見てみる。それでもやはり照らした部分しか見えないので、どんな様子かをリーダーが集約して、次は奥の方を照らしてみようかなどと判断した方が良さそうです。そうしているうちに、リーダーや慣れたメンバーには、だんだんと暗い洞窟の全体像が見えてきて…。
そんな例え話を、哲学対話に当てはめてみたらどうでしょう?
進行役にとっては扱ったことがあるテーマでも、その時々のメンバーでの対話は未知数です。正に暗い洞窟です。そして、皆が手にしているライトは、”質問・疑問・違和感”といったものでしょう。問いを発することで、世界が少しだけ可視化されます。
進行役自身も皆と暗闇の中でワクワクしながら、それでも少しだけ俯瞰的に暗い洞窟の見取り図を参加者に提示したり、一緒に描いていったり。そういう意味では、進行役は「交通整理」よりも「地図作成」をしているのかも知れません。
そして何よりも、暗闇に怯えたり戸惑っている人をケアしたり、自分のライトを照らさず暗闇をゆっくりと楽しむ人を邪魔しないことが、進行役の大切なミッションだと思います。
では、私のような「進行をせず、テーマ作成や会場セッティングなどを企画する」カフェマスターと呼ばれる人は、進行役とは何が違って、何を分担しているのでしょう。少なくとも哲学カフェ尾道では、私がテーマの原案を立案し、イベントを告知・開催しています。洞窟に譬えるなら、どの洞窟に行くかを選び、その時々の探検隊を組織して、進行役にも参加者同様に暗闇を楽しんでもらおうと画策する黒幕でしょうか。とは言え、始まってしまえば一番暗闇を楽しんでいるのは、私なのですが。
山口真悟(パートナー会員/哲学カフェ尾道)